東京地方裁判所 平成10年(ワ)20562号 判決 1999年3月31日
原告
渡邊キヨ子
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
杉本良三
被告
武藤甲二
右訴訟代理人弁護士
眞壁英二
主文
一 原告らの本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実
第一 事案の概要
本件は、原告らが、被告との土地賃貸借契約が平成一五年五月一八日に期間満了により終了することを前提として、被告に対し、地上建物の収去及び土地の明渡しを求める事案である。
第二 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告らに対し、平成一五年五月一八日が経過したときは、別紙物件目録二記載の建物を収去して、同目録一記載の土地を明け渡せ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
主文同旨。
2 請求の趣旨に対する答弁
(一) 原告らの本件請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第三 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らの先代であった鈴木鉄次(以下「鉄次」という。)は、昭和二八年五月一九日、被告に対し、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を、普通建物所有の目的で賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。)。
2 被告は、別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を本件土地上に建築して、これを所有している。
3 鉄次と被告は、昭和六〇年二月七日、裁判上の和解により、本件賃貸借契約の期間を、同五八年五月一九日から二〇年とすることを合意したので、本件賃貸借契約の次回の期間満了日は、平成一五年五月一八日である。
4 鉄次は、昭和六三年八月二三日に死亡し、鉄次の子である原告らが、相続により、本件土地の賃貸人の地位を承継した。
5 原告らは、遅くとも本訴を提起した平成一〇年九月九日までに、被告に対し、あらかじめ本件賃貸借契約の更新を拒絶する旨の意思表示をした(以下「本件更新拒絶」という。)。
6 原告らの本件更新拒絶については、次のとおり正当事由がある。
(一) 原告渡邊キヨ子は、その夫と共に、夫が貸借している肩書住所地所在の建物に居住しているが、右建物の敷地に対して、平成八年一〇月一六日に競売開始決定がされ、同月一七日に差押登記がされたため、右建物からの立ち退きを要求される可能性もあって、速やかに本件土地上に住居を建築して居住する必要がある。
(二) 原告鈴木萬亀子は、その夫と共に、肩書住所地所在の市営住宅に居住しているが、本件土地上に住居を建築して居住することを計画している。
(三) 原告青木由美子は、肩書住所地所在のマンションの一室を所有しているので、本件土地上に住居を建築して居住する必要はないが、他の原告らが本件土地上に住居を建築して居住することを承認している。
(四) 被告は、別紙物件目録三記載の土地及び建物を所有している。
7 被告は、平成一〇年三月二七日、当庁に借地借家法一七条二項に基づく増改築許可の借地非訟の申立てをしており、本件賃貸借契約の期間満了後における本件土地の明渡しを拒否して、原告らの本件更新拒絶に基づく本件土地の明渡しの正当性を争っている。
8 よって、原告らは、被告に対し、本件賃貸借契約の期間満了日である平成一五年五月一八日が経過したときは、本件建物を収去して本件土地を明け渡すことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 本案前の抗弁
本件賃貸借契約の期間満了日は、平成一五年五月一八日であって、本件口頭弁論の終結日である平成一一年三月一日から計算しても、約四年三箇月も将来の出来事であり、原告らの主張する正当事由が、現時点から右の期間満了時点まで継続して存在する保証はない。
したがって、原告らの本件訴えは、訴えの利益に欠ける不適法な訴えというべきであり、却下を免れない。
2 請求原因に対する認否
(一) 請求原因1の事実は、認める。
(二) 同2の事実は、認める。
(三) 同3の事実は、認める。
(四) 同4の事実は、認める。
(五) 同5の事実は、認める。
(六)(1) 同6の(一)ないし(三)の事実は、知らない。
(2) 同6の(四)の事実は、認める。
(七) 同7の事実は、認める。
第四 証拠
本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 本案前の抗弁(将来請求の適否)について
1 原告らは、本訴において、被告に対し、本件更新拒絶の意思表示に正当事由がある旨を主張して、本件賃貸借契約の期間満了日である平成一五年五月一八日が経過したときは、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを請求する。
2 ところで、右の請求は、民訴法一三五条に所定の将来の給付を求める訴えに当たるところ、同条は、既に権利発生の基礎をなす事実上及び法律上の関係が存在し、ただ、これに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証することを要しないか又は容易に立証し得る別の一定の事実の発生にかかっているにすぎず、将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により右請求権成立のすべての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなものについて、例外として将来の給付の訴えによる請求を可能ならしめたものと解される(最高裁昭和五一年(オ)第三九五号同五六年一二月一六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九頁参照)。
3 そして、借地法の適用を受ける本件土地の賃貸借契約においては、その期間が満了しても、被告が本件賃貸借契約の更新を請求するか又は本件土地の使用を継続するときは、原告らにおいて遅滞なく異議を述べ、かつ、自ら本件土地を使用することを必要とする場合その他更新拒絶についての正当事由がある場合でなければ、本件賃貸借契約の更新の効果が発生する(同法四条一項ただし書、六条)。
4 したがって、本件訴えが、将来の給付の訴えとして適法であるというためには、少なくとも、原告らの主張する本件更新拒絶についての正当事由の基礎をなす事実関係が、本件賃貸借契約の期間満了日である平成一五年五月一八日の時点まで継続して存在することが必要であるものというべきである。
5 ところで、請求原因1ないし同5の各事実、同6の(四)の事実、同7の事実は、当事者間に争いがなく、また、仮に原告らの主張する本件更新拒絶についての正当事由の基礎をなす事実関係(請求原因6の(一)ないし(四))が現時点において存在するとしても、右の事実関係が、本件口頭弁論の終結日である平成一一年三月一日から約四年三箇月も将来の本件賃貸借契約の期間満了日である同一五年五月一八日の時点まで継続して存在することは、これを認めるに足りる証拠がない。
6 そうすると、原告らの被告に対する本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、将来の給付を求めるために必要な要件(訴えの利益)を具備しない不適法な訴えというべきである。
二 結論
よって、原告らの被告に対する本件請求は、不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官井上繁規)
別紙物件目録<省略>